戦争映画が苦手な人にも観てほしい『この世界の片隅に』

映画『この世界の片隅に』を観ました。

戦争をテーマとした内容ですが、戦争映画にありがちな悲惨な光景を描くというより、のどかな日常を切り口としたところに新しさを感じる映画でした。過激な戦闘シーンやグロテスクな描写が苦手な人でも観られますので、その点で戦争映画を敬遠している人には観て欲しい一作です。

私が本作に興味を持ったきっかけは、ラジオで社会学者の宮台真司氏が「これを超えるアニメ映画はない」と絶賛していたことと、広島県呉市という舞台設定でした(私の父方および母方の祖父母が同時代に関わりを持っていた土地)。

正直に言うと、すごい感動した! という感想はありません。私がこの映画に言及したいと思うのは、つきなみながら、戦争というものへの関心を失ったり、遠ざけたりしてしまってはいけないという気持ちからです。

戦争のときは何気ない日常を求め、平和なときは戦争のような非日常を求める…今の日本はどちらかと言えば後者の方向へ向かう風潮があるのではないでしょうか。歴史は繰り返します。

30代の私はギリギリ祖父母から戦争の話を聞いていますが、日常的に耳にするほどではありませんでした。今や私の祖父母はみな他界しており、直接聞く機会はもはやありません。よほど意識的に情報を取りに行かなければ、戦争の現実を知ったり、想像したりすることもないのです。

私は父方の祖父が海軍の軍人家系でしたので、この映画の広島県呉市(軍港があった土地)は、まさに祖父がいた土地です。呉はかつて父と訪れ、軍人名簿のようなものを見せていただいたことがあります。祖父が最後に踏んだ日本の地である横須賀も家族で何度か訪れました。

祖父は30代そこそこで戦死し、今や私の方が長生きをしています。その事実と、過去に訪れた呉や横須賀の記憶から太平洋戦争当時の話には長らく興味を持ち続けています。思えば、これは両親から受けた教育のひとつだったのでしょう。

映画館は平日の昼頃だったこともあると思いますが、若者というよりはお年を召した方が多かった印象です。隣には冒頭の予告編が終わるギリギリまでよくしゃべっている20代くらいのカップルがいましたが、終わった後は静かに去っていきました。心のなかでどんな感想を抱いていたのか、気になります。

自分の次の世代となれば、いよいよ戦争についてリアリティを持って語れる人は皆無の時代となるでしょう。自分から動けば別ですが、身近に見聞きすることは困難です。戦争をまた経験しないよう、戦争の現実を知り続けようとする主体性や想像力がますます求められるだけに、駄文ながらこの映画を紹介しました。