イケてない京大生の大言壮語に笑った森見登美彦『太陽の塔』

久々に小説を読んで笑ったふもぱん先生(他称)です。

ある日、我が家の書棚を眺めていると森見登美彦さんという方の小説が複数あることに気づきました。自分以外の本も多数収まるようになった我が家の本棚。著者別に並べてあるわけでもないので意外に気づきませんでしたが、これは小さな発見…と不意に手にとったのが『太陽の塔』でした。

新潮文庫の裏表紙にある本の小さな紹介文を見ると、読書が苦手で読書感想文を書くために唯一ココだけ読んでいた小学生時分の自分を思い出します。ココだけ読んで無理矢理読書感想文をしたためるわけです。提出期限という慈悲無き存在を前に、苦し紛れで「感想文」をひねりだす…そこには一種の妄想力が必要だったわけですが、それはそれでよいトレーニングになったのでは、と30代半ばにして思います。

余談が過ぎました。

そんな私なので、出版社の方々の叡智が詰まっているであろうココの引用から。

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

舞台は京都です。明言されているようないないような、もはや記憶が定かではありませんが、登場するのは京大生各位でしょう。作者の森見登美彦さんも京大出身ですし、本作は作者が大学院生時代に書かれたものです。

吉田寮にみる京大生への妄想

私は京都大学に(物理的に)入ったことはありますが、その実態はよく存じあげておりません。一般的な事実を知る限り、無論、勉強がおできになることは確かでしょう。

国内で最高峰とされる東京大学と比較されることもありますが、私が勝手に妄想する京大生は、東大生を「優等生」という檻に閉じ込められた退屈な存在として断罪し、我が道を独創する個性的な存在、というイメージです。

もちろん京大生すべてに当てはまるわけもありませんが、こんな気持ちをマグマのごとく内に秘めている京大生は一定数いるに違いない、と勝手に想像します。これはあくまでも私の妄想が生み出したイメージであり、東大生も京大生も、ついでに私も悪くありません。ごめんなさい。

こんな妄想を広げてしまう一因は、京大の「吉田寮」のイメージが大きく起因しているかもしれません。あなたはご存知でしゅか、吉田寮を。あえてミスタイプをそのままにしましたが、ご存じですか(再)。

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ここで育まれる生命力たるや、と思いませんか。

今回読んだ小説を紹介するには少々過度な偏向がかかってしまう感は否めませんが、作中で登場する住居の描写や、男子大学生たちが集まって垂れ流すという「男汁」なる表現を見れば、行き過ぎたイメージでもないでしょう。

知性の無駄使いがよい

本作『太陽の塔』は、いろいろこじらせている典型的なイケてない大学生の生活を垣間見ることに魅力があります。ただの学生生活なら大して面白くもない危険をはらんでいますが、興味深いのはその表現力です。豊富な語彙力と遠回しで大げさな言い回しがよいのです。多少人格を疑われるかもしれない引用ですが、ほんの一部だけ紹介を。

 その日も私はビデオ屋で美しき女人の新作チェックに余念がなかった。
哀しいことに愛車「まなみ号」がどこか遠くへさらわれてしまったので、ビデオ屋へ来るのもひと苦労だが、私は紳士の義務を厭うような責任感のない男ではない。むしろ、かくのごとき逆境にあってますます荒れ狂う内的野獣の手綱を引き締めるためには、なお一層紳士であらねばならぬと言えよう。

小説をかたわらにキーボードをペシペシしているうちに、己の保身を思って引用するか否かを迷いつつも、自らの顔がゆるむのを感じるため、このまま引用を断行する所存です。この低俗な中身を意味深に表現するあたり、京大生の知性が無駄に消費されている感じで好きです。

「愛車」とは自転車のことですが、「まなみ号」などと命名し、無駄に愛を注いでいるあたりもよいです。作中には「水尾さん」という元彼女も登場するわけですが、元カノよりも自転車の方に愛を感じた瞬間もあります。自転車を「彼女」と表現していましたし。ちなみに文庫版『太陽の塔』のあとがきは、本上まなみ氏が書かれております。

その他、ゴキブリキューブをめぐる描写などもぜひ紹介したいところですが、私にも多少はある男汁の精神に反しますので我慢しておきます。

クリスマスを前に、「おのれ、キリストの祭典にうつつを抜かしおって」などと心の中でつぶやいたことがある方は、きっとたのしめる作品です。ここまでで「(うわっ)」と内心引いてしまうポイントがあった方は決して手に取らないでください。

妄想は計画的に。

森見登美彦さんの作品を複数読んでいるという御仁曰く、『太陽の塔』の表現が好みなら、『四畳半神話大系』もおすすめとのこと。私はさっそくかたわらに置いております。

参考サイト)
Wikipedia – 京都大学吉田寮
CNN – Yoshida-ryo: Dilapidated, decrepit and downright dirty